恐るべし、「PARCEL
FORCE」
ロンドンに住み始めてもう4年が過ぎました。今回は、こちらに住み始めてからずーっとずーっと悩まされている運送屋「PARCEL
FORCE」についての、恨み混じりのお話です。
最後にトラブルにあったのを機に、僕の奥さんが怒りに任せて書いてくれました。
イギリスの荷物配達は全く当てにならない。イギリスのサービス産業は基本的にどれも当てにならないけれど、なかでも配達は特にひどい。
例えば、大型の家具や電化製品を購入して、配達を頼む。日にちと時間を指定して、その日は仕事に遅れていくことにして家で待つ。予定の時間を10分過ぎ、20分過ぎても全く来る気配がない。待ちきれずに電話で問い合わせると、コールセンターの案内係が調べて折り返し電話すると言う。ちゃんと電話が来ればいいほうで、配達の代わりに電話を待つことになることも多い。折り返し電話が来たとしても、大抵は「運が悪いことに交通渋滞のせいで時間どおりの配達ができません。もう少し待ってください。」酷いケースでは、20時に指定した配達が夜の23時30分に来たこともある。そのときの言い訳は「住所が探せませんでした。」まったく、配達を仕事としている人がどうしたらそういう言い訳を言えるのか呆れてしまう。
そんな中で、紛れもなく「最悪」と呼べる配達会社がある。PARCEL
FORCEだ。過去に何度この会社に悩まされたか分からない。困ったことに、PARCEL
FORCEはイギリスの郵便局であるROYAL
MAILと提携しているらしく、海外から来る2KG以上の小包はこちらにまわされてしまう。
初めてこの会社の被害にあったのは、日本で自分達で箱に詰め、船便で送った荷物二つだった。船便は安い(といってもダンボール一つに1万5千円以上かかる)代わりに2〜3ヶ月かかるので、重いものを中心に、日本帰国中に慎重に選んだ本や、すぐには必要ない洋服などを詰めて送り、届くのを首を長くして待っていた。
ある水曜日の夕方、家に帰ると「Sorry
we missed you」と書かれたPARCEL
FORCEの不在配達カードが届いていた。船便に違いない。見ると、その日の14時過ぎに配達に来たらしい。カードには三つの選択肢−1)集配所に持ち帰りました。再配達日を指定して下さい。2)明日の同じ時間にもう一度配達します。3)指定の転送先へ配達します。−があり、そのうちの2)にマルがつけてあった。普通に考えて、最初に配達した時間に誰もいなかったなら、次の日の同じ時間にも誰もいないのが当たり前じゃないかと思う。仕事に出ている人の家ならなおさら、昼の14時に家にいると思うほうがおかしくないか?
それでもまぁ、3ヶ月も待ったんだし、明日来るんなら仕方ない、と思い、木曜日は仕事に遅刻することにして(会社にそんな言い訳が通用するのもイギリスらしいが…)待つことにする。ところが、待っても待っても来る気配はない。そのうちに17時になり、その日は仕事を休む羽目になる。問い合わせの電話をかけると、「今日の19時まで配達は行っているので、19時まで待って来なかったらもう一度連絡してください。」という。19時になって配達が来ないのでもう一度電話すると、録音されたテープが「PARCEL
FORCEの営業時間は平日午前9時〜午後19時です。営業時間におかけ直しください。」…バカにされているような気分になる。
金曜日の朝を待って、9時きっかりに電話をかけた。すると、「昨日つかなかったなら今日届くはずです。今日の配達荷物はもう配達車に乗せてしまったので、今から変えることはできません。」と馬鹿げたことをいう。さすがに二日続けて仕事を休むわけにも行かないので、仕事のない土曜日の朝に再配達を指定した。その日、仕事から帰ると、こんな日に限ってきちんと配達に来たらしく、二回目の「Sorry
we missed you」が残されていた。
土曜日の朝。今日こそ待ちに待った荷物が受け取れるだろうと、どこにも行かずに家で待つ。土曜日の配送は12時までなので、午前中に来るはずだ。10時、11時、11時半と時間が過ぎるが何も届かない。痺れを切らして電話をかけると、例によって「配達時間は12時までです。その時間まで待って来なかったらもう一度ご連絡ください。」結局荷物は来ず、またもや録音のテープにバカにされることになった。
日曜日。イギリスのほとんどの会社は閉まってしまうので、なにもできない。
そして最初の配達日から5日目に当たる月曜日の朝。すっかり待ちぼうけを食わされて憤っていた私は、どうなっているのか問いただそうとPARCEL
FORCEに電話をした。そして、信じられない言葉を聞かされることに。
「日本に送り返しました。」
…は?何言ってるの?
急に英語が分からなくなっかと思うくらい、電話の向こうの相手は当たり前のように何の感情も見せずに、とんでもないことを言う。
「え?なに?なんで?」
「二回の配達を試みましたがその後何の連絡もないので、送り主へ返送しました。」
…「返送した」って国内の郵便じゃないんだからいくら払って何ヶ月かけてここまで来た荷物か分かってる?
「だって土曜の午前中に再配達を指定したのに。」
「…こちらの記録には再配達の指定はありません。」
「記録はありませんって、電話して指定したんだから記録くらいのこってるでしょ。調べるなり再送するなり何とかできないの?」
「残念ながら荷物はもう集配所にはないのでどうすることもできません。」
ここで、イギリス人お得意の「There
is nothing we can do.」だ。
本当にイギリス人はこのフレーズが好きだ。特にサービス業に従事する人は、自分の仕事に対する責任感なんてものを全く持ち合わせず、平気で「もうどうしようもない」と言う。会社全体としての責任を自分で負おうなんて考えは全くなく、「私の役目は電話を受けるだけ」と開き直る。謝りもしない。
結局その後、イギリス人の知人に頼んでマネージャーまで呼び出して毎日のように電話攻めした甲斐もなく、最後に手に入ったのはマネージャーの名前の入った謝罪の手紙のみだった。「返送」されたはずの荷物も何ヶ月待っても日本の実家に届くことはなく、今でもどこへ消えたかは不明だ。おまけに、船便という一番エコノミーな方法で郵送したため、荷物の紛失に対する弁償はまったくゼロだった。
日本で値段と送料とを比較検討しながら慎重に選んで送った荷物だっただけに、落胆は大きかった。こんな先進国で日本から普通に郵便局を通して送った荷物が、無くなるなんて。それも、一度家のドアの前まで来ていたのに消えてしまったなんて。全く信じられない経験だった。
それでもその時は、初めてのことだったし、きっと運も悪かったのだろうと思っていた。ただ、この一件で配達に関してはかなり慎重になり、荷物が届く予定の日にはできる限り一日家にいるようにしたり、例のごとく「翌日の同じ時間に配達します」といわれればおとなしく家で待つようになった。「翌日」に待っていても届かない、再配達が来ないので再度指定する、なんていうニアミスはあったものの、慎重になることでなんとか同じような事故は防ぐことができた。
そんな中、仕事で相手をしていた日本人留学生の荷物がなくなったことがあった。最初の配達がもうすでに退去したホームステイ先に届き、ホストマザーは学校に転送するように指示したという。ホームステイ先から学校までは歩いて10分程度の距離だが、まぁイギリス人のことだし、一週間くらいはかかるだろうと気楽に構えていた。が、一週間過ぎ、二週間過ぎても荷物が届く様子は無い。またPARCEL
FORCEか…。嫌な予感があったが、30過ぎにもなる学生の「何とかしてください−」という甘えた声に、嫌々ながらも代わりに電話をすることに。すると今度は、「○月×日に配達されています。」というふざけた答えが返ってきた。「その日には受け取ってないし、別な住所に転送されているはずだけど。」というと、「OK.。それじゃ、こちらで集配所に連絡して調べてから折返し電話しましょう。」という。意外にまともな対応に驚いて、調べてもらうことにした。
電話は来なかった。
学生は毎日のように私のところに来ては、どんなにその荷物が大切かを切々と訴える。仕方なくもう一度問い合わせるが、一度目と全く同じ結果に終わる。そんな時、同僚が手に入れたPARCEL
FORCEのカードにホームページのアドレスがあることに気づいた。それによると、インターネットでも荷物を追跡できるらしい。早速荷物番号をいれて調べると、もう3週間以上も前にもなる最初の配達の日付で「DELIVERED(配達済)」とかかれていた。「SIGNED
BY ○○○」と、受取人の名前まで書いてあるものの、ホストマザーの名前ではない。誰かが代わりにサインをして荷物を盗んだんだろうか?でも、誰がわざわざそんなことをするだろう…。
どうせないだろうと思いながらも、ホームページから印刷したものを渡し、学生に最寄のPARCEL
FORCEの集配所に行くことを勧めた。集配所はバスを二本乗り継いで40〜50分という、決して近くはない場所にあるが、それ以外にはもうどうしようもない。学生は「遠い」と文句を言ってすぐには行かなかったが、結局は行ったらしく、数日後に集配所でもらったという別な紙切れを持ってやってきた。英語がまだほとんど分からない彼女は何を言われたかわからなかったらしく、とにかくその紙をもらって、どこかへ行けと言われたと言う。その用紙はコンピュータ画面からのプリントアウトらしく、荷物の履歴とともに、グレーの四角いボックスの中に、一つの住所がかかれていた。それは最初の配達先でもなく、転送先の学校でもない、まったく覚えの無い住所だった。そこにあるのかはわからないけれで、とにかくその住所を地図で調べて行ってみたら?と言うしかなかった。でも、住所はFinchley
roadというロンドン市内からロンドン北部まで延々と続く長い道で、番号は一桁から4桁まで至る。地図には番号までは載っていないので、道のどの辺りなのかはわからなかった。すると、同僚の一人が「それ、すぐそこの郵便局なんじゃないの?」と言う。確かに、すぐ近くにもFinchley
Roadは通っているし、そこには比較的大きい地元の郵便局がある。もうダメもとで行ってみるしかないだろう。最初に荷物が配達されてから、1ヶ月経とうとしていた。
その日の17時過ぎ、授業も終わり、仕事を閉めようとしていた頃、学生が満面の笑みを浮かべてやってきた。
「あったんですー!」
空港のチェックイン時に重量オーバーで慌てて袋詰にして送ったという荷物は、確かに彼女の手の中にあった。学生の話では荷物は最初にホームステイ先から転送されてから、ずっとそのすぐ近くの郵便局にあったと言う。そして、最初に郵便局へ着いてから一ヶ月になるその日に、日本に送り返されるところだったと言われたらしい。
とにかく、無事に受け取れてよかった。これで荷物が日本に送り返されていたら、その後どんな文句を毎日言われることになったかわからない。
それにしても、郵便局に保管していることを知らせてこないなんて、どうやって見つけろと言うんだろう。自分から探し回らないと見つかるわけがない。いや、きっと見つけさせようなんて気はもともと無いのかも知れない…。最初の住所で受け取ってくれなかったから、面倒くさくて郵便局に置いていっただけなんじゃないか?ますます、PARCEL
FORCEへの不信感が強まることになった。
ここで、イギリス郵便局であるROYAL
MAILにふれておく必要がある。2kg以上の荷物を扱うPARCEL
FORCEに対し、普通郵便、小型包装物を扱うROYAL
MAILは驚くほど確実なサービスを提供している。荷物を2KG以下にまとめてSMALL
PACKETとして郵便で送ると割安なこともあり、今までの日本からの荷物は大抵ROYAL
MAILによって届けられてきた。今まで幾度となく、実家の母がSMALL
PACKETで食料などを送ってきたが、一度としてなくなったことはない。それどころか、郵便は毎日朝のほぼ同じ時間(7時半〜8時)に届くため、家を出る前に受け取れ、不在配達となることも少ない。ついこの間、たまたま不在配達となったことがあったが、翌日に集配所へ行くとすぐに受け取ることができた。そんな理由で、母はいつも必ず2KG以下の小包を送ってくれる。常にROYAL
MAILで配達されるようにしてもらうとありがたいのだが、もちろん日本から誰かが気を利かせて何かを送ってくれるというのに、そんな注文をつけられないことも多い。
そして、またPARCEL
FORCEに悩まされることになる。
今度は、東京の実家から送っていただいた小包だった。月曜日の夕方、仕事から帰って、ポストの中に「Sorry
we missed you」を見つけたときはがっかりした。また、この会社だ。今度は集配所に持ち帰ったらしい。この人たちは、日本から送られてくる小包に、いったいどれ位の気持ちと費用と時間が費やされているかなんてことを、考えもしない。配達員に個人的な憤りを感じながら、見慣れた番号に電話する。もう、再配達に待ちぼうけを食わされるのも嫌だ、と言う思いから「最寄の郵便局で受け取る」という、新しい手段を取ることにした。コールセンターの愛想の良い青年は、「郵便番号から一番近い郵便局を調べてあげましょう」と言い、「水曜日の朝には最寄のCricklewood
Laneの郵便局で受け取れるようにしました。」と言った。Cricklewood
Laneの郵便局はすぐそこだ。これは、いいかもしれない。郵便局が信用できるんだから、きっと受け取れるに違いない。
ただ、郵便局は9時〜17時30分までしか開いていない。水曜日は仕事をちょっと早めに切り上げて行くしかないな。職場から郵便局までどれくらいかかるかな。…そう思って、ふと、Cricklewood
Laneには郵便局が二つあることに気がついた。一つは歩いてすぐのところ、もう一つは同じ道を上って5〜6分くらいのところだ。でも、最寄って言ったんだから、近いほうだろう…
とりあえず、両方行けるようにしようと仕事を17時で切り上げ、まず遠いほうの郵便局をあたる。インド人経営の商店の中にある小さな郵便局の窓口には、経営者の奥さんと思われるサリーを来たインド人女性が一人だけだった。「ここに私宛の荷物が転送されているはずなんだけど。」というと、彼女は周りを見もせずに、「ここには何もないわよ。」と言う。「今日は何も来てないもの。」
確かに、一人で切り盛りしているこの小さな郵便局では、何が起きているかをこの人が全部把握しているのだろう。「この坂の下にもう一つ郵便局があるから、そっちじゃないかしら?」「一番いいのはね、もう一度PARCEL
FORCEに連絡して、どの郵便局に送ったか確かめることね。」インド人女性は親切に自分の郵便局の住所を紙に書いてくれ、電話で確かめるように促した。
ここにないなら、やっぱりこの坂の下の、最寄の郵便局にあるに違いない。女性にお礼を言ってもう一つの郵便局を目指した。歩いて道を下り、家のすぐ近くなのに一度も行ったことのない、やはり商店の中の小さな郵便局へ入った。窓口ではあまり愛想のよくない中年のインド人男性が一人で働いており、荷物がを受け取りに来たという私の言葉に、やはり辺りを見もせずに「何も来てないよ。」と言う。「でも、水曜日には受け取れるって言われたんだけど。」と言うと、「でも、ここには何もないよ。坂の上にもう一つ郵便局がある。そっちにあるんじゃないの?」
狐にばかされてるような気分になりながら、すごすごと家に帰った。荷物はいったいどこにあるんだろう…。家に着いてすぐ、何よりも前に電話をかける。
この会社はいつもそうだが、電話をかけると目的別に番号を選択することで、違う担当者に電話が回される。選択肢は@再配達の指定、A過去に問い合わせて参照番号を持っている方、Bサービスに対する不満…など、延々と続く。そして、A番や「その他」を選ぶと、担当者につながるまで「PARCEL
FORCEは信頼できるサービスを世界中に提供しています」という全く事実に反するテープを聞かされながら何十分と待たされる。何回とない問い合わせで学んだのは、どの番号を選んでも話はできるし、同じ答えが返ってくるということ。だったら、すぐにつながる番号がいい。きっと担当者の人数が多いのでつながりやすい@再配達の指定を選び、それでも前回電話をしたときにもらった参照番号を言うと、少し待たされた後で、「その小包はCricklewood
Laneの郵便局に転送されています。」という返事が返ってきた。郵便局になかった旨を伝えると、例のごとく、「調べて折り返し電話します。」
もちろん電話はなく、翌日の木曜日、職場に着いてすぐにまた電話をかける。電話に答える人は毎回別人だけれど、驚くほど同じ返事が返ってくる。また調べてかけなおすと言うので、「イースター前に受け取りたいから絶対に今日中に職場にかけなおして」と強調した。金曜日からイギリスはイースターで、大抵の会社は4連休に入る。次の就業日である火曜日まで待ったら、また「連絡がないので日本に送り返しました」なんて言われかねない。絶対に連休前に受け取る必要があると思っていた。
仕事に追われるまま時間が過ぎ、夕方近くなった頃、同僚の一人が思い出したかのように突然、「あぁ、そう言えばさっき電話があったよ。」と言う。どうやら、ちょっと席を外していたすきにかかってきたらしい。実際にかけなおしてきたことが奇跡みたいなものなのに、出そびれたなんて…。どうして呼んでくれなかったの!と憤りを感じながらも彼女のせいじゃないのは十分承知しているので怒れない。彼女の記憶は曖昧で、どこがかけてきたのかは分かっていなかったようだが、それもポストイットに書いたメモをよこして「今日の19時までか土曜の午前中に取りに行けば受け取れるって。」メモにはただ、「today
until 19:00, Sat 12:30」と書かれていた。取りに行くって、どこに行くんだろう。郵便局に送られているはずだけど、郵便局は17:30までしか開いていないはずだ。19:00までと言うのはPARCEL
FORCEの集配所の時間帯っぽいけど…。確認が取りたくてもう一度電話をして、かけなおしてくれるように頼んだが、やはり折り返しの電話はかかってこなかった。その日は仕事が長引いて、どこか分からない場所へ小包を探しに行くことはできなかった。
でも、イースターの祝日にはさまれた土曜日に集配所が開いているとは思わなかったが、取りに来いと言うんだから開いているんだろう。土曜日に、集配所なり郵便局なりに探しに行こう…
GOOD
FRIDAYの祝日だった金曜日が過ぎ、土曜日の朝。まず、日本のお義母さんに頼んで荷物の参照番号をファックスしてもらい、インターネットで追跡してみることに。すると、確かに1週間ほど前にロンドンの集配所に到着したはずの荷物はその後何日か集配所で存在が確認されたあと、木曜日の午後16時30分過ぎに「DELIVERED(配達済)」となっている。
え、今日集配所で受け取れるんじゃないの?…そこで、以前の学生のケースを思い出す。確か、あの時も「DELIVERED」となっていたけど、荷物は郵便局に保管されていた。今回の荷物は「MEHTA」とかいう名前の人物によってサインされていた。なんかインド人の女性っぽい名前に聞こえる。その名前を頼りに、とりあえず、インド人女性のいた坂の上の郵便局に当たってみることにする。すると、あった、あった!やはり「MEHTA」はあのインド人郵便局員で、どうやら職場から一生懸命電話で問い合わせていた木曜日の夕方に、小包は二日遅れで郵便局にたどり着いていたらしかった。それにしても、電話のメッセージを信じて遠い集配所まで行かないでよかった。この会社に関しては、まったく何を信じたらいいのか分からない。
そんな騒動から1週間と経たないつい先週、日本の姉からEMSで小包を送ったというメールを受け取った。EMS(国際スピード郵便)とは一般郵便よりも速く確実な配達を保証する速達便で、その代わりに送料は随分高い。荷物が2KGを超えたため、今までの騒動を知っていた姉は気を利かせてEMSにしてくれたに違いない。さすがに今度は大丈夫だろうと安心して待っていた。参照番号もあったので、とりあえずROYAL
MAILのページで追跡してみると、荷物はちょうどその日にロンドンの集配所に着いていたらしかった。日本で出してから4日程度なので、ずいぶん早いほうだ。そのページによると翌日に当たる火曜日が「配達予想日」となっている。日中は家にいられないけど、EMSなら大丈夫だろう。不在配達通知が入っていたら、再配達を頼めばいい。と気軽に構えていた。
でも、翌日の火曜日にも、その次の水曜日にも、荷物の配達はもちろん不在配達通知も何も来ることはなかった。月曜日にロンドンに着いているのに、EMSなのに、おかしくないだろうか。
木曜の朝。職場から再度インターネットで追跡してみると、確かに荷物はその日の朝に集配所で確認されている。「配達予想日」も、もう過去となる火曜日から変更されていなかった。でも、荷物の状態はまだ「IN
PROGRESS (処理中)」とされており、配達されていないのは確かだ。とりあえず確認しようと、そこに書いてある問い合わせ番号に電話をしてみる。…すると、聞きなれた声で、「PARCEL
FORCEへお電話いただきありがとうございます…」というテープがながれている。え、ROYAL
MAILじゃないの?それまでROYAL
MAILのページで追跡していたから、ROYAL
MAILの集配所にあるんだと信じていた。その二社のホームページは内部でつながっていたらしく、最悪なことに、結局EMSでも普通郵便でも、2KGを超えた海外からの荷物はすべてPARCEL
FORCEによって配達されるという事実に気付かされた。ショックだった。
電話の向こうの女性は、参照番号を聞くと、ちょっと待たせてから「その荷物は過去に2回、配達を試みているはずです。」と、おかしなことを言った。月曜日と火曜日に配達車に乗って集配所を出た形跡があると言うのだ。不在配達通知もなにも残っていなかったと言うと、相手はそれはおかしいと言い、例によって「調べて折り返し電話をする」と言った。もう、信じてもいなかった。家に帰っても、不在配達は入っていなかった。家からもう一度問い合わせてみる。今度の担当は男性だったが、前の女性とまったく同じことを言い、またかけなおすと言うので、私はそれを遮った。「で、今荷物はどこにあるの?」「ロンドン北部の集配所にあります。」「それじゃぁ、明日そこに取りに行けば受け取れるのね?」「その通りです。」集配所にあるならいい。もう自分で行ったほうが早いと判断し、それ以上の問い合わせを諦めた。
金曜日。PARCEL
FORCEの集配所は場所こそ知っているが、行ったことがない。たいして遠くはないが、便が良くないので家から往復したら一時間はかかりそうだった。仕事が9時からなので、朝に行って戻ってくるのは無理そうだ。
ということで、仕事が10時半から始まる僕がPARCEL
FORCEの集配所へちょっと早く仕度して引き取ってくることになった。
集配所はバスに乗って停留所5つくらい先にあり、巨大な建物だった。矢印の示すままに門を通り、中庭のようなスペースに面した小さな入り口を入ると、小さな部屋があった。部屋を区切るようにしてしつらえてあるカウンターに椅子が4脚といったこの飾り気のない部屋が受付ならしい。カウンター越しに、Mがあらかじめプリントアウトしてくれていたホームページの情報を見せ、「ここに載っている小包が、この集配所にあると聞いて受け取りに来ました。」というと、係の人はプリントをとって奥へ引っ込んでいった。
結構な間待たされた後、この人は手ぶらで戻ってくると、
「昨日は記載された住所に問題があってドライバーが見つけられなかったみたいだけど、その修正が終わって今日また配達しに行ったらしく、この小包はここにはありません。」
これだ。この巨大な建物が象徴するような、PARCEL
FORCEという巨大な「イギリスの運送業のリーディングカンパニー」は、大きすぎて末端まで神経が通っておらず、全体として全く機能することのできない生命体というか、塊で、まるで僕はその体内で途方にくれているような気さえした。
「小包は明日ここに戻ってくるので、また明日来て。」
僕はやむなく手ぶらで家まで一旦戻り、そこから会社に行った。15分くらい遅刻した。
翌日の土曜日。会社は二人とも休みなので、9時に起床してゆっくり目の朝食をとり、小包が集配所から他所へ配達されていないことをホームページで確認した後、もし万が一PARCEL FORCEが気を変えて、家に小包を配達しにきてしまった場合を想定してMは家で待機、僕が集配所へ行くことにした。
土曜日でお休みと言うこともあって、10時50分くらいに到着した時には、集配所の例の小さな入り口には人が4、5組あふれ出ている。勿論受付の小部屋も不在票を手にした人たちで一杯だった。
受付には4人の係の人が結構良いペースで荷物を手渡していたけれど、僕はどちらかといえばこれだけの人たちが、たいして交通の便も良いとは思えないこの集配所まで来なければならないというのも、そもそもPARCEL
FORCE がちゃんと配達できてないからなんじゃないのかと思わずにはいられなかった。
「あーこの小包はこの集配所にはないね。木曜日づけで誰かのところに配送済みになってる。隣の家とかに訊いてみてー。」
カウンター越しに係の人が話していたのは、イギリス人の彼氏と一緒に来ていたアメリカアクセントのある韓国の人と思われる女性だった。
「ドライバーがどうも配送しちゃったみたいなんだよねー。でも今日はこのドライバーはお休みだから、直接訊きたい場合は火曜日になっちゃうねー。」
あぁここにもかわいそうな被害者が。
「ここに配送した先の住所あるから。ホント隣の家の人とかに訊いてみてね」と言われてしょげて帰っていった。
僕の番になって事情を話してプリントアウトを見せると、係の人はしばらく戻ってこなかった。僕より後ろに並んでいた何人かが僕より先に荷物を引き取ってから出て行ったあと、ようやく係の人が奥から戻ってきた。手に小包を抱えて。
昨日この集配所に来たときには、表記されている住所に問題があったと言っていた。しかし小包の上に貼ってある日本からの伝票に書かれた住所には全く間違いはなかった。これで届けられないなら、それはドライバーが無能なのだと思ったその時、日本の伝票の下に貼られたステッカーが目に入った。
「20
WINDMILL DRIVE IS A CORRECT ADDRESS
DON’T
C/A AGAIN」
「C/A」というのがどういう意味なのかは分からなかったけれど、「20
WINDMILL DRIVE(家の住所) で宛先はあっているから、もう「C/A」(集配所に持って帰ってきてしまうというようなことだろうか)はしないこと」と書いてあった。
すなわちドライバーは、家の住所が見つけられなかったか何かで、「C/A」をしたのだが、調べた人が住所はあっていることを確認したので、もう一回配送を試みたのが昨日だったのかもしれない。
サインを済ませて無事に引き取ることができたのは、この集配所に着いて40分経ってからだった。そして11時半ごろ外にでると、小さな入り口から中庭へ溢れ出した人の列は、長い弧を描いて中庭を半周してる。きっと30組くらいはいるらしい。
午前中で閉まる集配所は全員分処理し切れなくても、時間が来たら窓口をピシャッと閉めるに違いない。イギリスとはそういう国だと思いながら、小包を抱えて家へ帰った。
そんなわけで、EMSという速達便利用の甲斐も全くなく、英国到着6日目にして受け取れた小包に入っていた和菓子のいくつかは賞味期限が切れてしまっていた。ほんの2〜3日前に。そしてたらい回しにされた結果か、おせんべいはこなごなに砕け散っていた。さらにひどいのは、そんな騒動の最中、月曜日に母がSMALL
PACKETで送ってくれた小包が、ROYAL
MAIL経由で金曜日には家に届いていたことだ。二倍近い料金を払ってEMSで送ったはずなのに、後から送った普通郵便が先に届くなんて…
日本から色々なものを送っていただくのは本当にありがたいのだけれど、PARCEL
FORCE によってもたらされる苦悩、そして小包が配達されない/無くなる危険を思うと、
公的サービスが、日本と比べてしまうとびっくりするくらい「やる気のない」ロンドン。 これがロンドンの一面であり、ロンドン生活で上手につきあっていかなければならないことなのです。でも頭にきますけどね。